こんにちは。
診療放射線技師のララです。
放射線治療に関して、こんな疑問が多いことに気付きました。
放射線治療ではX線と電子線があるらしいけど、何が違うの?
実はこれ、一緒に働く医療従事者からいただいた質問です。
一生懸命説明したら、納得してもらえたのでブログ記事にしたいと思います。
この記事では、X線と電子線の特徴、そして両者の使い分けについて解説していきます。
教科書やネットだと、この辺複雑な情報が多いです…
でもX線と電子線の使い分けに関しては、「腫瘍が体の中のどこにあるのか」くらいしか考えていません。
X線の特徴
放射線治療のほとんどは、X線が使われます。
まずは、X線の特徴を解説します。
人体を突き抜ける
X線は、人体を突き抜けます。
ざっくりなんですが、お腹にX線を当てたら背中までダメージが及びます。
人体を突き抜けるからこそなんですが、X線はまっすぐ飛んでいきます。
人体の中に入っても、ほぼほぼまっすぐ突き抜けていきます。
「まっすぐ飛ぶ」という特徴があるからこそ、MLCで作られた照射野の形を維持したまま人体まで届いてくれます。
ビルドアップ
X線にはこんな特徴もあります。
X線は、人体の中に入ってから威力が最大化する。
X線は人体に当たってすぐではなく、人体の中に入ってから威力が最大化するんです。
不思議ですよね。
ビルドアップはPDDと関係します。
PDDに関しては、こちらの記事で解説しております。
放射線治療では、できるだけX線がビルドアップしたところに腫瘍があってほしいわけです。
さらに、X線の中でも種類があります。
エネルギーで種類わけされます。
メーカーによって違うんですが、X線では主に以下のエネルギーが使われています。
- 4 MV(メガボルト)
- 6 MV(メガボルト)
- 10 MV(メガボルト)
- (もっとあるかも…)
エネルギーの使い分けは、以下のような感じです。
- この患者さんは、乳房の治療なので4MVのX線で治療します。
- この患者さんは、前立腺の治療なので10MVのX線で治療します。
X線のエネルギーが低いほど、人体の表面付近でビルドアップします。
X線のエネルギーが高いほど、人体の中の方でビルドアップします。
電子線の特徴
放射線治療では、実は電子線はあまり使われません。
X線に比べるとですけどね…
とはいえ、電子線はX線と扱い方が違います。
いざ電子線の治療をやるってなったときに、わりと焦りますので、電子線についても解説します。
人体を突き抜けない
電子線はX線と違って、人体を突き抜けることはありません。
体の中にある程度は入りますが、体の中で消えてしまいます。
例えば、人体のお腹に電子線を当てるとします。
電子線が当たるのは、ほとんどお腹の表面だけで、背中側の方はほぼダメージがありません。
まっすぐ飛びにくい
放射線治療で扱う電子線は、まっすぐ飛んでくれません。
まっすぐ飛ばないと困ることがあります。
それは、MLCで照射野を作っても意味がないことです。
電子線はMLCで照射野を作っても、患者さんの体に届く頃には照射野の形は崩れています。
そのため電子線治療の場合は、このように「ツーブス」と呼ばれるものを取り付けます。
「コーン」と呼ばれたりもします。
ツーブスの先には、「ブロック」と呼ばれる照射野を形作るものがあります。
写真の場合だと、照射野は丸い形です。
電子線はX線と違って、患者さんの体に当たる直前で照射野の形が作られて照射されるわけです。
ビルドアップ
電子線もX線と同じくビルドアップがあります。
人体の中に入ってから、電子線の威力は最大化します。
ビルドアップの深さは、電子線のエネルギーによって変わります。
これもX線と同じですね。
電子線のエネルギーはX線よりも種類が多い印象です。
電子線のエネルギーの単位は、「メガエレクトロンボルト」です。
- 4 MeV(メガエレクトロンボルト)
- 6 MeV(メガエレクトロンボルト)
- 9 MeV(メガエレクトロンボルト)
- 12 MeV(メガエレクトロンボルト)
- 15 MeV(メガエレクトロンボルト)
- (施設によってはもっとあるかもです)
電子線のエネルギーが低いほど、人体の表面付近でビルドアップします。
電子線のエネルギーが高いほど、人体の中の方でビルドアップします。
X線と電子線の使い分け
最後に、放射線治療においてX線と電子線はどのように使い分けられるのか解説します。
結論としては、体の中の方にある腫瘍はX線で治療し、体の表面にある腫瘍(ほぼ皮膚上に見えている腫瘍)は電子線で治療します。
X線で体の中の腫瘍を治療
X線は、「体の中にある腫瘍」を治療する場合に用いられます。
上記で説明したように、X線は人体を突き抜けます。
そのため、一方向からたくさんX線を当ててしまうと、正常組織へのダメージが大きくなってしまいます。
そこで、放射線治療は少なめのX線を多方向から当てるのが一般的です。
色んな方向から腫瘍に向かってX線を当てます。
そうすると、ほとんどのX線が腫瘍だけに当たります。
正常組織にも少しX線は当たりますが、ダメージは低いです。
電子線で体の表面の腫瘍を治療
電子線は、「体の表面にある腫瘍」を治療する場合に使われます。
皮膚がんとかケロイドなら、電子線が使われると思います。
でも、先ほど「電子線にもビルドアップがある」と説明しました。
そのまま電子線を当てても、腫瘍を通り過ぎてからビルドアップが起きてしまう可能性もあります。
しかし、本当は電子線がちょうどビルドアップしたところで腫瘍に当たってほしいんです。
そこで、電子線がビルドアップしたところで腫瘍に当たるように、「ボーラス」を使います。
ボーラスとは、人体と似た材質でできた柔らかい板のようなものです。
厚さが0.5 cmとか1 cmとか、ボーラスにも種類があります。
体の表面の腫瘍部分にボーラスを置いて、その上から電子線を当てます。
そうすれば、ちょうど腫瘍部分で電子線のビルドアップが起こってくれます。
ちなみに、X線でもボーラスが使われることはあります。
これも、ビルドアップをコントロールするためですね。
とはいえ、ボーラスは電子線治療で使われることの方が多い印象です。
電子線治療の特徴として、覚えておいていいかもです。
まとめ
以上、記事をまとめます。
- X線は人体を突き抜け、体の中の腫瘍を治療するのに使われる。
- X線は、多方向から腫瘍を照射して、線量を収束させる。
- 電子線は人体を突き抜けず、体の表面の腫瘍を治療するのに使われる。
- 電子線は、体の表面にしかほとんどダメージを及ぼさないため、一方向から多くの線量を当てることができる。
X線と電子線は、物理学的には全く別物です。
でも、難しい構造とか原理を理解しようと思ってもピンと来ないはずです。
僕なんかは大学生の頃、物理学とか難しくてほとんど理解できないまま卒業してしまいました。
正直、今も理解しているかどうか自信ありません…
とはいえ、僕が放射線治療の現場に従事しているのは確かです。
理解しようと努めるよりも、いきなり実践してしまった方が得るものは大きいのではないかと思ってます。
この考え方は昔は邪道だったかもしれませんが、現代ではむしろ王道です。
でも、医療業界はまだまだ遅れてるかもですね。
学生時代は基本、講義ばっかりですからね…
これ言うと怒られるかもですが、大学の講義に注力するのも、わりと非効率かと思います。
これに関する記事も書いておりますので、よければ読んでいただければと思います。
というわけで、記事は終わりです。
今回も読んでいただいてありがとうございました。