こんにちは。
診療放射線技師のララです。
僕は学生の頃、こんな疑問を持っていました。
「造影CTってどんなこと考えて検査してるんだろう…」
造影CTを実際にやったことがない学生の皆さんも、ほぼイメージがわかないんじゃないでしょうか。
かと言って、造影CTについて参考書で勉強しようと思ってもなんか難しいことばっかり書いてあるような気がします。
余計イメージがわきません。
そこで、この記事では主に以下のことについて解説します。
- 造影CTの目的は何なのか
- 造影剤はどのように入れるのか
- どのように撮影するのか
臨床実習の準備、診療放射線技師として就職するための準備として、この記事を活用していただけたら幸いです。
造影CTの目的
造影しないCTのことを単純CTと言います。
造影CTの目的は、単純CTでは見つけにくい病気を見つけやすくするためです。
具体的にどんな病気が見つけやすくなるのか、以下で解説します。
血管の病気を詳しく見たい
造影CTによって、血管が観察しやすくなります。
こちらの画像をご覧ください。
左が単純CTで右が造影CTです。
大動脈解離(だいどうみゃくかいり)という病気です。
大動脈の内壁が裂けた状態です。
単純CTでも大動脈解離であることはなんとなくわかるかもしれません。
でも確実に大動脈解離であると判断するには、やはり造影CTが必要でしょう。
造影CTなら大動脈解離であることがわかるだけではありません。
大動脈解離の状態も観察することができます。
臓器の病気を詳しく見たい
造影CTによって、臓器も観察しやすくなります。
例えば肝臓です。
微妙なところですが、単純CTではやっぱり分かりにくいですね。
造影CTの方が、病気があるだけでなく大きさとかまで分かりますね。
臓器の観察でも、造影CTは役に立ちます。
目的を満たすために
造影CTが役に立つことは明らかです。
でも、どうやったら造影CTが撮れるでしょうか。
体の中に造影剤が流れている間にCTを撮れば、造影CTです。
当たり前かもしれませんが、意外と奥が深いです。
造影剤はどうやって入れるか
そもそも造影CTで、造影剤はどうやって体の中に入れるのでしょうか。
造影CTでは、造影剤は静脈から入れます。
これが結論です。
まず、腕の静脈などに針を刺します。
その針にチューブをつなぎます。
これを、「ルートを確保する」って言ったりします。
そのルートから、造影剤を入れるわけです。
当然ですが、ルートを確保できていないと造影CTはできません。
診療放射線技師は「ルート確保」ができませんので、医師か看護師にお願いすることになります。
造影剤を入れる時は、「インジェクター」という機械を使います。
インジェクターを使う理由は主に以下の2つです。
- 一定の速さで造影剤を入れるため
- 人間の手で入れようと思っても力不足だから
実は造影CTの造影剤って、見た目は水っぽいんですが触るとベタベタしています。
粘稠度があるとかって言ったりします。
粘稠度があるためか、造影CTで造影剤を入れる時はものすごく力が必要です。
そのためにも、インジェクターは必要なのです。
もし、あなたが今後臨床実習を控えている学生さんならこんな質問を持って行っていいかもしれません。
「インジェクターはどれですか?」
自然な形でインジェクターに触ることができると思います。
触って危ないものでもないので、ボタンとか色々押してみてください。
ひと通り触った後、どういう風にインジェクターが使われているかを観察すると、臨床実習が楽しくなるかもです。
どれくらい造影剤を入れるか
造影剤を入れる準備ができたら、今度は「どれくらい入れるか」を考えなければなりません。
造影剤はどれくらいの速さで、量はどれくらい入れればいいでしょうか。
「1秒間に何mL入れるか」と「全部で何mL入れるか」をインジェクターに設定しなければなりません。
参考になるのはこちらの260ページです。
画像診断ガイドライン2016年版 日本医学放射線学会
まず造影剤の量から考えます。
CTの造影剤は「ヨード」という成分が含まれています。
このヨードがCT画像で白く映るわけです。
ヨードがどれくらい入ればいいかを考えます。
必要なヨードの量は、患者さんの体重で決まります。
ガイドラインを参考にすると、体重1 kgあたり600 mgI(ミリグラムヨード)のヨードが必要です。
単位がなんか難しいけど、気にしなくていいと思います。
とりあえず、体重1 kgあたりにヨードが600必要です。
例えば、患者さんの体重が50 kgだとします。
600 (mgI / kg) x 50 (kg) = 30000 (mgI)
ということで、体重が50 kgの場合はヨードが30000必要です。
造影剤は、ヨードの濃度によって色んな製品が用意されています。
以下のような感じです。
- 370 mgI / mLの濃度で100 mL入っている製品
- 350 mgI / mLの濃度で100 mL入っている製品
- 300 mgI / mLの濃度で100 mL入っている製品
- その他、80 mL入っている製品もあれば150 mL入っている製品もある
体重50 kgの患者さんには、上の計算式でヨードが30000必要であることが分かりました。
ということは、300 mgI / mLの造影剤を100 mL入れれば、必要なヨード量が入れられることになります。
では、350 mgI / mLの造影剤を使うなら何mL入れればいいでしょうか。
30000 ÷ 350 (mgI / mL) ≈ 86 (mL)
ということで、50 kgの患者さんに350 mgI / mLの造影剤を使うなら、86 mL入れればいいということになりますね。
必要なヨード量を入れられるなら、300 mgI / mLの造影剤でも350 mgI / mLの造影剤でも370 mgI / mLの造影剤でも、どれを使ってもいいです。
「370 mgI / mLを使って造影剤余らせるくらいなら、300 mgI / mLを使うか」
現場ではこんな感じのことを考えながら、どの濃度の造影剤を使うかを考えています。
どれくらいの速さで造影剤を入れるか
次は、「造影剤を入れる速さ」を考えます。
ということで、またガイドラインを参考にします。
結論から言うと、造影CTでは造影剤を30秒かけて入れます。
ガイドラインには、30秒前後と書かれていますが、ここでは30秒としましょう。
例えば、体重50 kgの患者さんには300 mgI / mLの造影剤を100 mL入れればオッケーです。
これを、30秒かけて入れるわけです。
造影剤は1秒間に何mL入れればいいでしょうか。
100 mLを30秒かけて入れるので
100 (mL) ÷ 30 (秒) ≈ 3.3 (mL / 秒)
ですね。
いったん整理します。
体重50 kgの患者さんには、以下の要領で造影剤を入れればオッケーです。
体重50 kg 必要ヨード量600 mgI / kg 30秒かけて注入するなら
300 mgI / mLの造影剤100 mLを3.3 mL / 秒の速さで入れる。
この条件を導き出すのに、色んな計算してきましたよね…
でも、現場ではそんな計算いちいちしません。
実際は、インジェクターの操作画面で以下の情報を入力するだけです。
- 患者さんの体重(kg)
- 体重あたりのヨード量(mgI / kg)
- 注入時間(何秒かけて入れるか)
- 造影剤の濃度(mgI / mL)
これらの情報を入力すれば、どれくらいの速さでどれくらいの量の造影剤を入れるかを自動で計算してくれます。
いつ撮影するか
まだあります…
次はどう撮るかを考えます。
繰り返しですが、造影CTとはこちらです。
体の中に造影剤が流れている間にCTを撮れば、造影CTです。
「体の中に造影剤が流れている間」とは、いつでしょうか。
造影剤を入れている途中でしょうか、造影剤を入れ終わった後でしょうか。
ということで、ガイドラインを参考にします。
ここでは多相性造影CT(多分、ダイナミック造影CTって言う人の方が多い)について考えます。
簡単に言えばこうです。
造影剤を入れてから、3回撮影します。(2回で終わることもある)
問題は、その3回とはいつといつといつなのかですね。
ガイドラインによると、以下です。
- 注入時間 + 5秒後〜10秒後に撮影
- 注入開始してから70秒後に撮影
- 注入開始てから180秒後に撮影
1と2と3をそれぞれ、動脈相、門脈相、平衡相と呼びます。
言葉にあまり意味はないと思います。
どのタイミングで撮影するのかだけ考えればいいかと。
造影剤の注入時間は、ほとんどの場合30秒ですから1番目は注入開始してから35秒後〜40秒後になると思います。
3回撮影することで、どんな画像が撮れるかはガイドラインを参考にしていただくといいかと思います。
肝細胞癌が造影剤で染まる様子が示されていると思います。
造影CTの基本としてダイナミック造影を知っておくと就職してから楽かもです。
造影CTには他にも色々な方法があります。
ガイドラインにもありますが、通常造影とかボーラストラッキング法といった記述があります。
通常造影は、造影剤注入開始してから70秒後〜90秒後に撮影すればいいだけなんですが…
注入時間は30秒じゃなくてもっと遅くてもいいみたいな…
なんかややこしいですよね…
ボーラストラッキング法は、ダイナミック造影のちょっと複雑なやつです。
説明すると長くなるので、いずれ解説記事を別で書きたいと思います。
ガイドラインには「ボーラストラッキング法を推奨」と書かれているので、目指すはボーラストラッキング法をマスターすることかもですね。
まとめ
以上記事をまとめます。
- 造影CTの目的は、単純CTでは見つけにくい病気を見つけること
- 造影CTではほとんどの場合、患者さんの腕の静脈から造影剤を入れる
- 造影剤の量は、患者さんの体重1 kgあたり600 mgIのヨード量を基本とする
- 造影CTでは、基本的に30秒かけて造影剤を入れる
- 造影剤を注入して、一定のタイミングで2回とか3回撮影する方法を多相性造影CT(ダイナミック造影CT)という
ちなみに、CTの造影剤はほとんどが尿から排泄されます。
腎機能が正常であれば問題ありません。
でも、腎機能が低い患者さんもいます。
この場合、「造影剤を少し減らす」という手法を使うこともあります。
具体的には、必要ヨード量を600 mgI / kgではなくもっと低くすることがあります。
600という数字は絶対ではありません。
また、血管が弱い患者さんもいます。
そういう場合は造影剤の注入速度をあまり速くできないという状況もあります。
その時もまた、どうすればいいかを考えなければなりません。
造影CTは奥が深いと思います。
何が正解かも多分わかってないんじゃないかと思います。
そのためか、病院によって方法はバラバラです。
とはいえ、目標は同じです。
病気が見つかる画像を撮影すること。
この目標に向かって、色んな試行錯誤が行われています。
学生のみなさんが今学んでいることも、もしかしたら正解ではないかもしれません。
社会に出てからやるべきことは、実は「勉強」よりも「試行錯誤」だったりします。
試行錯誤のための勉強も必要かもしれませんが…
だとしたら、「周りより知識量が多いこと」や「成績優秀であること」にこだわっても現場ではあまり役に立たないです。
「色々試してみたけど、上手く行かなかった」
現場では、この経験の繰り返しの中でやりがいを見つけていくことになると思ってください。
というわけで最後は脱線しましたが、今回はこれくらいにします。
ここまで読んでいただいてありがとうございました。