【学生向けです】IMRT(強度変調放射線治療)は何がすごいか

お疲れ様です。
診療放射線技師のララです。

診療放射線技師を目指す学生のみなさんは、放射線治療の講義でIMRTという用語を目にすると思います。
僕が学生時代の頃は「強度変調放射線治療のことでしょ…それしか知らんけど」といった感じでした… 笑

だって、学生時代に得られる情報ってほとんど文字じゃないですか。
IMRTについては教科書に一応説明が載っていますが、正直イメージ湧かないと思います。

診療放射線技師として就職して、IMRTについてようやくわかるようになりました。
とはいえ、IMRTについて専門的に詳しく説明できるかって言われたらそうではありません。

ですが、IMRTはすごいです。
今回は学生の方向けに、IMRTは何がすごいのかを語ってみたいと思います。

従来の放射線治療とは

IMRTの前に、基本的な放射線治療計画の作り方を簡単に解説します。

まずどの角度から放射線を当てるのかを決めます。
2方向から当てるのか、3方向なのか、4方向なのかなども考えます。
そして、それぞれの角度でMLCの形を腫瘍の形に合わせて作ります。

そしたら、コンピュータ上で患者さんに放射線を当ててみます。
すると、コンピュータが計算をして、患者さんの体に線量分布を描きます。

狙った腫瘍にどれくらいの線量が当たっているのかを観察します。
同時に、周りの正常組織に線量が当たり過ぎていないかも観察します。

線量分布を観察しながら、以下のようなことを考えて調整します。

  • どの方向から放射線を当てるのか
  • いくつの方向から放射線を当てるのか
  • MLCの形の微調整
  • etc…

これが、従来の放射線治療計画の方法です。

従来の放射線治療を一言で言うと、以下です。

「どのように放射線を当てるかを人間が考えて決める」

IMRTは便利

さて、従来の放射線治療と比べて、IMRTがどうすごいのか解説していきます。
IMRTは便利です。

インバースプランニングである

フォワードプランニングインバースプランニングって教科書などで見たことあるでしょうか。
上記で説明した従来の放射線治療がフォワードプランニングです。

繰り返しになるかもですが、フォワードプランニングは「どのように放射線を当てるのかを人間が考えて決める」方法です。

これに対して、インバースプランニング現代的画期的合理的です。
びっくりされるかもですが、インバースプランニングは「どのように放射線を当てるのかを機械が考えて決める」方法です。

基本的に人間がやることは、「腫瘍にどれくらいの線量を当てるかを決めること」です。
極端に言えばですけどね…。
まぁこの辺が従来の放射線治療とは異なる点であることに変わりはありません。

人間が「腫瘍にどれくらいの線量を当てるか」を決めたら、後は機械が「どのように放射線を当てればいいか」を考えてくれます。
人間が考えるよりも、機械が考えた方がはるかに正確な線量分布を描けます。

本来、MLCは腫瘍の形に合わせて作られるものです。
でも機械に考えさせると、MLCで作られる照射野がなんかイビツです。

しかも放射線を出しながら、MLCの形を変化させるという高度な方法を採用してきます。
MLCを使って、まさに強度を変調させているわけです。
人間には到底思いつかないような放射線の当て方をします。

だけど、なぜか最終的には腫瘍のみに線量を集中させた最良の線量分布を、機械が作ってしまうんです。
コンピュータのレベルはここまで来てるんですね。

正常組織に優しい

IMRTは言うまでもなく、正常組織に優しい放射線治療です。
ほとんどの放射線が腫瘍のみに集中するため、正常組織に対するダメージはかなり少ないです。

とはいえ、正常組織へのダメージは完全に0ではありません。
照射周囲の組織だったり、皮膚だったり普通に炎症を起こします。

しかし、従来の放射線治療でももちろん正常組織に炎症は起きます。
放射線治療では、炎症だけではなく様々な合併症を引き起こす可能性があります。
やはりIMRTは、その合併症を起こす確率を低くしています。

管理は大変

IMRTは便利ですが、従来の放射線治療よりも管理が大変です。

IGRTが必須

IMRTをやるにはIGRTがないと厳しいです。
IGRT(画像誘導放射線治療)とは何か、簡単にですが説明します。

従来の放射線治療の流れは以下です。

「患者さんを寝かせる」→「放射線を当てる」

しかし、この方法だと患者さんの体の中にある腫瘍にちゃんと放射線が当たっているかわかりません。
そこでIGRTを使います。
IGRTを使うと、治療の流れは以下になります。

「患者さんを寝かせる」→「画像を撮る」→「放射線を当てる」

画像を撮ることで、患者さんの体の中にある腫瘍の位置がわかります。
放射線が集中する位置腫瘍の位置を一致させてから放射線を当てる、という流れとなります。

IMRTは一ヵ所に放射線がものすごく集中することになります。
仮に、腫瘍からずれた位置にIMRTで放射線を当ててしまうと、正常組織に放射線を集中させてしまうことになります。

だから、IGRTを使ってきっちり放射線が集中する位置と腫瘍の位置を一致させてから、IMRTを行う必要があります。

放射線治療計画自体は機械が自動でやってくれるのでいいのですが、実際に照射する際にひと手間が必要になるということです。

実測が大変

ここで、繰り返しになりますが、放射線治療計画ではコンピュータ上で患者さんの体に放射線を当てて線量分布を観察します。

しかし、「線量分布を観察してオッケーならすぐ照射」とはなりません。
あくまでもコンピュータ上で放射線を当ててるだけなので、現実世界で放射線を当てても同じような結果になるかどうかは、やってみないとわかりません。

そこで、測定を行うわけです。
実測と呼ばれたりします。

実測の詳しい方法はここでは割愛します。
従来の放射線治療であれば、実測は比較的簡単です。

しかし、IMRTの実測になると複雑で時間もかかります
コンピュータの計算が正しいかどうかは、今のところ実測することでしか確認することができません。
この実測の存在が、診療放射線技師の負担になっているのは間違いありません。
IMRTの難点かもしれません。

しかし、その難点も解決されつつあります。
今では便利な線量計が開発されています。
IMRTの実測のような複雑な測定も、わりと簡単に行えるようになりました。
測定にかかる時間も短縮されているようです。

最後に

今回の記事をまとめると以下です。

  • 従来の放射線治療計画は人間が作る
  • IMRTでは放射線治療計画は機械が作る
  • IMRTは正常組織に優しい
  • IMRTではIGRTが必須
  • IMRTにおいては実測が大変

記事の終盤でも書きましたが、IMRTという技術が生まれて実測が複雑化してしまいました。
しかし、線量計が進化してくれたおかげでその実測もだいぶ簡略化されました。
そして、IMRTもさらに進化を続けています。

私達の日常生活の中でも、いろんな商品やサービスが開発されています。
しかし、その開発の裏で新たな難題も生まれています。

それでまたその難題を開発すべく、新たな商品やサービスが再び開発されているんだと思います。
ってことは、問題は常に生まれているのではないでしょうか。

問題解決のカギはほとんどの場合「どうやったら楽になるか」だったりします。

医療現場でも、問題は常に起こっているんです。
「楽をしてはいけない…」
医療現場では、いまだにこんな固定観念がはびこっています。

でも「どうやったら楽になるか」という発想がない限り、IMRTなんていう新しい技術は生まれることはないでしょう。
医療現場が「どうやったら楽になるか」という発想を持てば、もっと新しいものが生まれるはずです。

学生のみなさん。
就職したらぜひ「どうやったら楽になるか」という発想を持ってみてください。

ということで記事は以上です。
ここまで読んでいただいてありがとうございました。

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