こんにちは。
診療放射線技師のララです。
学生時代に放射線治療を学んでいると、とにかく用語がわからなくて消耗します。
PDDやOARはどうでしょうか。
わかりにくい用語の代表ではないでしょうか。
ちなみにOARは以前、OCRと呼んでいました。
しかし、標準測定法12に変わってからは、OARと呼ぶことが決まりになったようです。
大学の講義でPDDやOARについて理解しろって言われても、正直無理です。
大学の講義のように、不必要に細かいところまで知る必要はありません。
仕事レベルで考えるべきです。
PDDやOARはなぜ測定するのか。
PDDやOARを測定しないとどうなるのか。
この記事を読めばわかってもらえるかと思います。
なぜ測定するのか
学生のみなさんに質問です。
今まで習った知識は全て忘れていいです。
放射線治療で使うビームがちゃんとしたビームであることを証明するにはどうすればいいと思いますか?
何をもってちゃんとしたビームであると言えるでしょうか。
結論、測定するしかないわけです。
では何を測定しますか?
それぞれオリジナルの方法で測定して、ちゃんとしたビームですって言われてもなんか微妙です。
だから、PDDとOARを測定しましょうということになります。
現に、放射線治療装置が新しく導入されたら、まずPDDとOARを測定します。
ちゃんとしたビームが出ているかどうかを確認するためですね。
PDDとは
PDDって何を測定しているのかを理解していきましょう。
縦の情報
まずやることは、水槽に入った水にビームを当てます。
ビームは水面に到達して、やがて水槽の底に到達します。
この間に水の中で、ビームの強さがどのように変化するのかを、線量計を置いて観察します。
簡単に言えば、ビームの縦の情報を観察します。
これがPDDです。
どう測るか
PDDをどう測定すればいいか簡単に説明します。
上の図をご覧ください。
黄色がビームで水色が水です。
赤矢印の線上で線量計を動かせばいいだけです。
まずは、線量計を水槽の底付近にセットします。
そして、ビームを出しながら線量計を遠隔操作で徐々に水面の方に上げていきます。
すると上のようなグラフが描かれます。
水槽の底付近では、ビームが弱いです。
水面付近では、ビームが強いことがわかります。
イメージ的に、水面の位置で一番ビームが強そうですが、上のグラフではそうなっていませんね。
不思議ではありませんか?
ビームが一番強いのは、水面から1 cmほど深いところです。
これをビルドアップ効果といいます。
なぜビルドアップ効果が起きるのかは教科書とかに書いてあると思います。
ですが、なぜビルドアップ効果が起きるかを理解しても、仕事ではあまり役に立ちませんので参考にだけするといいかと思います。
ピーク深を知る
PDDを測定した上で一番ほしい情報は、ピーク深です。
ピーク深とは、ビームが一番強いときの水の深さです。
ピーク深は、いつ測定しても同じになるはずです。
だから、「前回PDDを測定したときのピーク深は1 cmだったけど、今回PDDを測定したときのピーク深は2 cmだった」なんてことはあり得ません。
1 mmくらいの誤差は出ますが、1 cmの誤差が出たら何かおかしいです。
水槽の設置のしかたや線量計の設置のしかたが間違っているかもしれません。
それか、放射線治療装置が異常な場合も考えられます。
その場合は、急いで機器メーカーに連絡して対処してもらわなければなりません。
OARとは
OARって何を測定しているのかを理解していきましょう。
横の情報
まずやることは、PDDの測定と同じように水槽に入った水にビームを当てます。
今度は、ビームが均等に当たっているかどうかを調べます。
PDDはビームの縦の情報だったのに対し、OARはビームの横の情報です。
どう測るか
OARをどう測定すればいいか簡単に説明します。
上の図をご覧ください。
同じように、黄色がビームで水色が水です。
今度は赤矢印が横向きになっています。
この赤矢印の線上で、線量計を動かしていきます。
線量計の立場になって考えていきます。
まず、線量計はビームが当たらない位置からスタートします。
しばらくはビームに当たらないですが、赤矢印の線上を横に進んでいくと、ビームが当たる領域に入ります。
線量計はしばらくビームを浴び続け、さらに赤矢印の線上を進んでいくと、ビームが当たる領域を外れてビームを浴びなくなります。
グラフにすると、このように描かれます。
線量計がビームを浴びていない間は、ビームの強さは0に近いです。
そして、線量計がビームに当たる領域に入るとビームの強さはほぼ100%に達します。
しばらくビームの強さは100%を維持し、線量計がビームの当たらない領域に出ると、再びビームの強さはほぼ0になります。
対称性を知る
OARを測定して得られるのは、ビームの対称性です。
線量計にビームが当たっている間は、ビームの強さはほぼ100%でなければなりません。
でも、ビームの対称性はずれることがあります。
ビームの端の方の強さが70%や80%になったり、逆に100%を超えて110%とか120%とかになっていたら、ビームの対称性がずれています。
そうなると、台形の形をしているグラフの上の部分が斜めになります。
台形の上の部分は、いつもほぼ直線でなくてはなりません。
もし、ビームの対称性がずれていたら、機器メーカーに連絡して、修理してもらわなければいけません。
測定しないとどうなるのか
ここまで解説してきたPDDとOARですが、これらは定期的に測定しなければなりません。
PDDとOARの測定は研究のためではありません。
機器管理のために、定期的な測定が必須となっています。
具体的な頻度は、半年に一回です。
測定にはファントムや様々な機器を使います。
なんせ半年に一回ですから、測定のやり方とかわりと忘れます… 笑
やり方忘れてしまうんですが、測定は必須ですからなんとかして実施してます。
半年に一回とかなると、結構サボってしまいがちです。
測定には3時間とか4時間かかります。
日常業務が終わってからやるにしても、かなりしんどいです。
しかし、測定をサボってしまうとピーク深とビームの対称性がどうなっているかわからないままです。
冒頭で表現したように、ちゃんとしたビームが出ているかわからないまま、放射線治療をやることになります。
結論、PDDとOARは「定期的にきちんと日にちを決めて少なくとも半年に一回測定するべきもの」なんです。
まとめ
以上、まとめたいと思います。
- PDDはビームの縦の情報であり、ピーク深を知るのが目的
- OARはビームの横の情報であり、ビームの対称性を知るのが目的
- PDDとOARは定期的に測定するべき
特に学生時代は、放射線治療の分野で「測定」と聞くとどうしても「研究のため」というイメージが浮かんでしまうものではないでしょうか。
少なくとも僕はそうでした。
診療放射線技師として就職してからは、放射線治療において「測定」は業務の一環であり、「慣れれば必ずできるようになるシンプルな作業」であることを実感することができました。
試験勉強のために、用語を理解する必要なんてありません。
研究のために勉強する必要もありません。
「仕事」をすればいいんです。
「勉強」や「研究」なんて、学生を評価するために意図的に作られたものに過ぎません。
学生のみなさんは、それに左右されることで消耗しやすいんです。
「仕事」を覚えればいいんです。
この記事によって、PDDやOARという用語をぜひ「仕事」を基盤に理解していただけたら幸いです。
というわけで、今回は以上です。
ここまで読んでいただいてありがとうございました。